機関車が長編成の客車を牽いたのも今は昔、今や客車列車を見ること自体少なくなりました。最後まで寝台特急―ブルートレインの牙城だった上野~北海道系統も、ついに北海道新幹線開業の影響を受けてカウントダウンを迎えます。今後、客車列車は「特別」に残された存在にすぎなくなるでしょう。

私の地元九州では、SL列車「ひとよし号」用に残された50系客車が細々と走るのみですが、わずか10数年前までは客車列車の多く行きかう地域でした。とりわけ、熊本は寝台特急に供される14系・24系の一大所属先として栄え、現在新幹線ホームがある場所には客車の集う留置線がありました。


今回の物語は時を遡って2008年夏、夕暮れ時のJR博多駅ホームから始まります。これから乗車する列車は熊本発東京行きの寝台特急「はやぶさ」号。熊本を出発して玉名、大牟田、久留米、鳥栖と鹿児島線の主要駅に止まり、博多駅には17時33分に到着します。

B寝台
西鹿児島から熊本に短縮された際、使用車両は24系から14系に振り替えられ、ロビーカーは廃止。さらに「さくら」編成から独立して走行する鳥栖以南は短編成で走行するなど、じつに寂しい列車になってしまいました。食堂車オシ24が外された2000年ごろからの転落ぶりは凄まじいものでした。

辛うじて、「さくら」「はやぶさ」両編成を使用して独立運転していた「富士」も、「さくら」廃止後は「はやぶさ」と併結運転することになり、日豊線内では短編成での運転を余儀なくされています。

旅のはじまりは九州から

すでに夕食は済ませたので、駅構内で軽食や飲料を購入し、列車の到着に備えます。博多駅は九州新幹線全通に向けた改修工事の真っ最中で、すでに新幹線側と接するホームは一部潰され、駅構内も大変化を迎えようとしていました。


「はやぶさ」予告放送は10数分前から流れ始めます。「昼行特急」では絶対に聞けない、長ったらしい途中停車駅案内を聞くと胸が高鳴り、落ち着きがなくなってきました。熊本方面の線路と腕時計の間を何度も目で往復させ、冷静になって時間を潰そうと思うも、なかなか時間は過ぎてくれません。


「まもなく3番乗り場に、17時33分発、『寝台特急』はやぶさ号、『東京行き』が到着します・・・」

わずか10数分とはいえ、もう2時間近く待ったような気がする中、「はやぶさ」の到着放送が流れ始めました。抑揚高く「東京行き」と発音するのが良い。JR九州のけたたましい到着ベルが鳴る中、ED76が青い客車を従えて到着するのが良い。電機の轟音に続いて客車の静かなジョイント音とブレーキ音の響いてくるのが良い。列車到着時からこれほど良い良いづくしなのも、ブルトレの旅だからこそです。


ホームにたたずむブルトレの重厚感は、何回乗車しても色あせません。重厚感に圧倒されながら、ステップを踏んで車内に入り、切符に目をやりながら自分の区画を探して歩きます。「ヒルネ」利用の時と違い、今回は車内で一晩過ごしますから、これまでにない感慨深さに包まれました。オーソドックスな開放B寝台が今晩の宿です。

一晩過ごす座席兼ベッドに荷物を降ろすと、列車はちょうど博多駅を出発しようとしていました。通路側の折りたたみ椅子に腰かけ、雨降る福岡市内の風景をしばし堪能することに。

博多駅出発後のアナウンスは郷愁あふれるオルゴール式の「ハイケンスのセレナーデ」でした。この後も「ハイケンス」を聞くことになりますが、いずれも電子式で、オルゴールは博多駅出発後の1度きりでした。

どんよりとした曇り空に若干の雨が混じる中、列車は北九州を目指して北上・東進していきます。客車列車の軽快なジョイント音を堪能しているうちに、列車は減速して福間駅に到着しました。同じ特急種別とはいえ、高速で行きかう電車特急には叶いません。特急列車に道を譲り、再び北九州目指して歩み始めました。

この「はやぶさ」、特急であることには変わりないので、普通列車に比べるとはるかに速いスピードで走り抜けます。普段なら時間のかかる博多~東郷駅間も「はやぶさ」の手にかかるとあっという間です。宗像市内をあっさりと通過し、城山トンネルを抜けると北九州地方に入ります。

これから、「はやぶさ」の旅には数回大イベントがやって来ます。まず1回目のイベントは門司駅で待ち受ける「転線・『富士』との連結・機関車交換作業」のセットです。博多から約1時間半、お待ちかねの門司駅に到着。

関門間で2度楽しめる「大イベント」

ここで「はやぶさ」は大分発の「富士」と連結するため、一旦到着ホームを離れて転線し、「富士」到着ホームに入線しなおします。転線中の車窓も気になりますが、私は一旦列車を降りて軽食を買うついでに、「富士」到着シーンを眺めてみました。


門司駅ホームはレイルファン以外の方も多く、九州ブルトレ恒例イベントとして広く認知されていることを実感できました。間もなく歴史の一ページになる光景を目に焼き付けておきます。


▲大分から来た「富士」が門司駅に到着


▲連結作業中の「はやぶさ」編成(左奥)と「富士」編成(右手前)

EF81 400
▲門司から下関まで牽引したEF81-410

「はやぶさ」と「富士」の併結作業は終了し、一つの列車になった「はやぶさ・富士」の車内に戻り、再び折りたたみ椅子に腰かけました。関門トンネル通過後、すぐに「2番目の大イベント」が待ち受けています。

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関門トンネルを抜けた先の下関駅では機関車交換のため、門司駅と同じように長時間停車します。これが「2番目の大イベント」です。やはり多くの乗客がホームに出て、交換の顛末をまじまじと眺めています。


▲下関駅で出発を待つ415系1500番台


▲下関駅ホームでEF66の到着を待つ乗客たち


この頃の下関駅ではまだ、反転フラップ式の行先案内表示が現役でした。近いうちに消えるであろう風景は余すことなく記録に収めます。下関到着の時点で、すでに日は暮れて夜を迎えていました。


▲「はやぶさ・富士」編成と連結されるEF66-53

夜汽車の旅情

本州に入った「はやぶさ・富士」は山陽本線を登り、山口県下の主要駅をこまめに停車していきます。外の風景はもう見えないので、車内の様子を一通り見て回り、その後は寝台で同行者と合流して寛ぎながら時間を過ごすことに。


▲スハネフ15のトップナンバーが連結されていた
スハネフ14・15のけたたましいエンジン音は決して嫌いじゃありませんでした。


▲スハネフ14-12


▲更新された14系寝台車の洗面台
さすがはJR九州、ホテル並みの綺麗な洗面台にリニューアルした車両も存在します。


▲更新されず、原型をとどめた14系寝台車の洗面台

夜更けて就寝客が多くなる中、「3番目の大イベント」が訪れました。1日目最後の大イベントは徳山駅出発後に流れる「おやすみ放送」です。到着駅・時刻の放送、浜松到着前まで放送を中断する旨の告知、就寝時の注意事項が流れ、放送が終わると減光されて車内は真っ暗になります。車内を照らすのは僅かな車内灯と窓の外から漏れる沿線の光だけで、夜汽車のしみじみとした旅情が演出されます。

しばらく夜の車窓を眺めてから、私も翌日に備えて上段ベッドに落ち着きました。ところが眠れません。列車の揺れが激しいから眠れないのではなく、夜汽車の旅情に感動したあまり、興奮して眠れなかったのです。この後、2012年にも「きたぐに」の上段で一夜を明かしましたが、その時もほとんど眠りについていません。

目を閉じて電機と客車列車が織りなすBGMを堪能していると、列車は減速を初めて停車しました。眠りについてはや数時間経ているので、中国地方の駅ではありません。ベッドから身を乗り出して窓を覗いてみると、ちょうど米原駅に運転停車しているところでした。消灯された223系が印象に残っています。

米原を出た列車は天下分け目の関ヶ原を越え、中京地方に入ります。しばらく眠りに入った後、名古屋駅の手前で目覚めました。窓の外から橙色の朝焼けが差し込み、爽やかな朝の訪れを感じます。博多駅出発の時点ではあいにくの小雨でしたが、名古屋の天気は晴れ。これから東京までの数時間、素晴らしい車窓を堪能できそうです。

活気あふれる朝の車内

東海道本線を東に登り、浜松駅到着を目前に「4番目の大イベント」がやってきました。本日最初の車内放送―「おはよう放送」です。現在の時刻・天気・走行地点の放送は夜汽車でないと聞けない、まさに乗客だけの特権でした。


「おはよう放送」に続いて、名古屋から乗車した販売員による車内販売の開始を告げる放送も入りました。浜松から車掌室を使った即席の売店が設置されたというので行ってみると、すでに朝食を買い求める乗客が長蛇の列をなしていました。食堂車なき後も、このように食事を求める乗客が車内に集まる様子を見ることができたのは、私にとってせめてもの慰めでした。

「車販で購入したコーヒーをすすりながら、折りたたみ椅子に腰かけて太平洋を眺めることがついに叶った。」と思い、実現したことに対する嬉しさがこみ上げたと同時に、次の乗車はもう叶わないという運命に、悲しくもなりました。

私は東海道筋を利用するたびに「富士山を見よう」と躍起になりますが、いつも雲に隠れてその姿を現してくれません。今度こそ富士山を見ようと寝台側の窓を覗くも、やはり富士山は見えず。かわりに車内散策でもしようと思い、洗面所を通ると歯を磨く乗客の姿に目が行きます。歯を綺麗にして、備え付けのコップで口を漱ぐ・・・この光景もブルトレの旅ならではです。

列車はついに丹那トンネルを越えてJR東日本管内に入り、長編成の近郊列車とすれ違いながら東京に近づいていきます。撮影地として名高い熱海~小田原間の絶景を目に焼き付け、首都圏の空気をかすかに感じると、同時に旅の終わりも見えてきます。長いようで短いブルトレの旅は間もなく大団円ですが、横浜駅を出発した後、最後の最後でトラブルに見舞われました。

立ち往生を経て終点へ

東京郊外を快走していると、突然床下から鉄の焼ける臭いが漂い、激しい衝撃と共に列車は立ち往生しました。あまりの衝撃と鼻をつく臭いに驚き、車内がざわつき始めます。停止してから2、3分後、「踏切の非常停止装置が押された」旨が車内放送で告げられ、品川を目前に十数分もの間、動けなくなった列車の中で過ごすことになりました。


▲下関から牽引してきたEF66-53
最後の大イベントは東京駅到着を告げる車内放送です。さすがは日本屈指の一大ターミナルなだけあって乗り換え案内は長く、品川駅を通過する頃に放送が始まり、それが終わるのは到着直前です。多くの乗客が荷物をまとめてデッキに移動する中、列車が停止する直前まで折りたたみ椅子に腰かけ、都心の風景と競合する300系新幹線を眺めつづけました。


博多から夜汽車に揺られて約16時間半、ついに終点・東京駅に到着です。外の雰囲気は博多駅と全く異なりますが、青い客車は昨晩と変わらず重厚な雰囲気を漂わせ、乗客や待ち受けていたレイルファンの被写体になっています。九州と東京を結ぶ長距離列車の雄姿を決して忘れまいと胸に刻み、降り立ったホームを後にしました。

撮影日:2008年8月8~9日

牽引機関車一覧

 牽引区間 牽引機
 熊本~門司 ED76-66
 門司~下関 EF81-410
 下関~東京 EF66-53
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  コメント
ついこの間まで、時々見かけた光景も、気付くと過去帳入りですね。

最近の鉄道の変化も著しいです。
ぞうまさ #- [ 編集 ]    2015年10月11日(日) 10:45
ぞうまささん
わずか5年だけでも、だいぶ変わったんですよね。西鉄でも急速に3000形が増えましたし、8000形もついに置き換え対象となりました。2000形が走っていたのがつい昨日のように感じられます。
wra #9MBBB9Tg [ 編集 ]    2015年10月11日(日) 21:05
盛り沢山…
夜汽車、って響きだけで旅情が掻き立てられる気がします。


ブルトレ、修学旅行の帰りに乗ったきりだからなあ…やはり、大人になってから自力で乗るものだなあ、と。


機関車の牽引する客車、過去のものになりつつあるけど、だからこその特別感がありますよね。願わくば、食堂車が健在であればなあ、と。
焼きそば #t50BOgd. [ 編集 ]    2015年10月11日(日) 23:27
焼きそばさん
寝台列車の減少・消滅には、利用客の減少や車両の老朽化といった事情もあるかもしれませんが、分割民営化以降、JR会社間で融通が利かなくなってきたこともあるんじゃないかと思います。分割民営化の宿命とはいえ、悲しさを感じないわけにはいきません。

客車列車が減少して客車自体がほとんど存在しない一方で、SLの復活計画が至る所で持ち上がっていますよね。「客車不足の中、どう遣り繰りするのか」と気になっていましたが、JR西日本の方で客車新造の計画があることを知り、かなり期待しています。
wra #9MBBB9Tg [ 編集 ]    2015年10月12日(月) 18:54
関門トンネルでは、さびないようステンレスの機関車を使っていましたね。
ED30の頃から、EF81になってもステンレスの車両だけが使われていると思っていたら、違う場合もあったとは。


急行も含めると、青い車両の夜行列車も、いよいよカウントダウンですね。
早朝に東北に行く手段として、また道内では終列車や始発を兼ねる意味合いもあり、札幌→室蘭以外は代替列車も無いだろうし、無念です・・・
レラティー #rcEo15nI [ 編集 ]    2015年10月21日(水) 07:34
レラティーさん
夜行列車のメリットはなんといっても、睡眠時間=移動時間にまとめることができ、しかも現地滞在時間を多く持てるということでした。新幹線だと真夜中に走らないので、夜行に比べると到着時間は遅くなりがちですし、個人的には高いだけの乗り物という印象が強いです。JRグループは新幹線にこだわっているようですが、果たしてこれでLCCとまともに勝負できるのか・・・と気になっています。

時間があるときはフェリーが一番ですよ。
wra #9MBBB9Tg [ 編集 ]    2015年10月21日(水) 11:22
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