【2016年夏】阪九フェリー「ひびき」に乗る(新門司⇒泉大津、2)
以下、旅行記スタイルでお届けします。船旅が好きな方だけでなく、少しだけ関心のある方もどうぞ、ゆっくりとお楽しみください。
大海原の上でひとっ風呂 ―新門司出港まで
泉大津行き「ひびき」が出発するのは17時半。小倉駅から無料送迎バスにゆられ、出航30分前の17時前、新門司港に到着した。泉大津行きが出るのは宮殿風の第1ターミナルではなく、船を模した造りの第2ターミナルだ。

カウンターで切符を購入後、ターミナル外から「ひびき」を間近に眺めてみたい。新造船ということもあり、外観は真新しく古さを全く感じさせない。
旅客だけではない、長距離トラックやコンテナも無くてはならない「客」だ。トラックが次々に目の前を通りすぎ、鼻筋の開口部から「ひびき」船内に取り込まれていく。むしろ荷物輸送の方が盛んで、どんなに旅客が空っぽでもトラックとコンテナだけは大量に積み込まれるのだ。

時計を見ると出港まで25分。余裕をかまして散策していたら、置いてきぼりを食らいかねない。旅は常に時間との勝負だ。時間をないがしろにしては、次の行程に障ってしまう。船外散策はこれで切り上げ、ターミナル上階からタラップを伝い、「ひびき」船内に入っていこう。
今回の「ひびき」乗船客は非常に少ない。トラックの運ちゃんや、毎度恒例の「寺社巡りツアー客の高齢者」をのぞくと、ほんの数十人しかいなかったのではなかろうか。
今回の宿は、一番安いカーペット敷きの「スタンダード洋」と決めている。船体の左右に広がる「スタンダード洋」の部屋は、あまりの客の少なさに半分閉め切られていた。
よって利用できる「スタンダード洋」は通常の半分に限られるから、どんなに客が少なくても相部屋になる。すべての部屋を見回ってから、一番客の少なそうな部屋を今晩の宿に決めた。
室内では父子と思しき男性2人が、早々と晩酌を楽しんでいる。ゆったりした船旅では、風呂に入ったり、レストランで食事したり、雄大な風景を眺めたり、持ち寄った食材や酒で宴を開いたりと、思い思いの楽しみ方ができる。船旅に慣れてきたら、自分なりの過ごし方を探してみよう。

▲出港前の「ひびき」甲板から、オーシャン東九フェリー「フェリーびざん」を眺めて

▲「ひびき」甲板から、沖止め中の名門大洋フェリー(船名未詳)を眺めて
蒸し暑い外気で汗がにじみ、なんだか気分が悪くなってきた。荷物を部屋に置き、さっそく浴場に出向きたい。新造船「ひびき」では、新たに「露天風呂」が置かれたという。潮風に当りながら、ひとっ風呂満喫できるのであろうか。
気分高らかに浴室へ入ると、嬉しいことに入浴客は少ない。流し湯をして露天風呂に一直線、すると目の前にはアクリル板伝いに、広大な海原が広がっていた。天井には屋根がなく、潮風が浴室に吹き込んでくる。これは面白い、風呂に入りながら新門司出港を見届けることに。
露天風呂に入って3分もしないうちに、「ひびき」は泉大津目指してゆっくり動き出した。船から吐き出された煙が、頭上から潮風と一緒に吹き込んで煙ったい。これも船旅ならではといったところか。
船は新門司港内でスイッチバックし、防波堤を抜けて周防灘へと突き進む。頭上から吹き寄せる風は徐々に、煙から純粋な潮風へと変わっていく。先ほどまで蒸し暑かったというのに、涼しげな潮風が空間を支配して心地よいではないか。新造船「いずみ」「ひびき」を利用するときは、ぜひ露天風呂を楽しみにしたいものだ。
食後のひと時 ―九州が見えなくなるまで
浴室で汗を流し、続いて食事をすませておく。船のレストランは高いものだが、どうしても足を運びたくなる。レストランから眺める夜景を、今はなき「ブルートレイン」の食堂車に重ねようとしているのか。

今回はレストラン入口の掲示板で紹介されている、ジャージャー麺(550円)をいただく。肉みそが沢山入ったジャージャー麺は昔からの好物だ。少し辛めの肉みそは中華麺によく絡み、しかも冷製だから蒸し暑い季節にピッタリである。

「船は今頃どこを走っているのか」。ふとそう思い、食後に甲板から景色を楽しむことにした。強風が吹き付けない乗降口に立ち、車窓右手を眺めると、国東半島と姫島が目前に見えている。

▲「ひびき」から姫島(大分県姫島村)を眺めて

▲商船三井「BERGAMOT ACE」
さらに、船の前方には商船三井色の貨物船がいて、「ひびき」が徐々に迫っている格好だ。船名は「BERGAMOT ACE」。後日、同船に着いて調べたところ、やはり商船三井所属の自動車輸送船だった。

▲国東半島の夕空

間もなく日没の時間だ。姫島を通過するうちに、太陽は水平線に沈んでいく。とはいえ、九州本土上空は厚い雲に覆われており、太陽自体は全く見えず、辛うじて光が漏れているに過ぎない。


▲雲があたかも、空を舞う鳳凰にみえた瞬間

姫島横を通り過ぎた頃には、完全に日が暮れていた。島の先端部にある灯台からは、光が点滅している。これから夜の瀬戸内海を東に進んでいく。
いつ眠ってもいい船旅 ―夜の二等船室で
外が暗くなったので、今晩の宿に戻る。室内では件の親子が晩酌を続けており、何とも平和そうだ。聞くと、親子はこれから大阪府内へ墓参に行くという。地元から離れて旅を満喫する乗客がいて、わずかな時間を使って遠い故郷を目指す乗客もいる。
乗る目的は違えども、心裡に乗船までの深い背景があるのは皆、同じに違いない。そういう私も、日常のしがらみから離れたくなって今、「ひびき」に乗っているのだから。
早起きせねばならない平日と違って、今はいつ寝起きしようが構わない船の中。今日ばかりは良いだろうと、時計の針が9時を回ったころに就寝する。寝具類は従来の船とは異なり、布地のマットに綿入りの枕と豪華だ。結局このまま翌朝4時半まで、寝床から動くことはなかった。
夏至直後の朝、パンを友に寛ぐ

日付が変わって2日目、目覚めた時点で船はすでに明石海峡大橋に差し掛かっていた。甲板に出てみると、5時前だというのに空は明るく、夏場の日昇の早さを実感する。海峡大橋はすでに通過した直後で、背後にうっすらと橋が見えた。

阪九フェリーの名物といえば、何といっても「焼き立てパン」だ。早朝、船内で焼き上げられたパンは朝食の定番として知られている。私も毎回、阪九フェリーを利用するたびに朝食はパンと決めている。
パンの販売は5時頃にはじまった。売り場のあるエントランスには、すでにパンを求めて乗客が数多く集まっている。私の定番は「チョコチップメロンパン」。これとコーヒーを付けて、計350円の朝食をプロムナードでいただく。
簡単な食事を済ませると、船はもう泉大津の手前まで来ていた。甲板に出ると、暁を背景に泉大津や岸和田の工場群が見えている。間もなく泉大津港に到着だ、急いで下船の準備を取り掛かる。
早朝の泉大津に着く
「ひびき」は定刻通り、午前6時に目的地の泉大津に到着した。これから一息つく間もなく、下船して泉大津駅行きの送迎バスに乗り換える。

ターミナル内には泉大津らしく、マスコット「おづみん」の旗やステッカーが随所に見られる。「よく似たデザインばかり」で有名になった「塩崎キャラ」の一員ではあるが、大切に活用されているようだ。

▲岸和田観光・阪九フェリー送迎バス

ターミナルだけではない。送迎バスにも地元マスコット数体がプリントされているのだ。件の「おづみん」や、同じく泉大津のマスコット「ななまる」、和泉市のマスコット「コダイくん」「ロマンちゃん」があしらわれている。
「仏閣巡りツアー」の高齢者も続々と下船してきた。一行は待機していた観光バスに乗り込み、これから高野山や吉野に向かっていくのだろう。どのツアー客も軽い足取りで歩く、元気な高齢者ばかりだ。

我々を載せた送迎バスは6時10分頃、泉大津港を出発した。このバスは岸和田観光が運営しており、南海泉大津駅までは無料、JR和泉府中駅までは大人170円と有料になっている。このシステムは神戸便の送迎バスと共通している。

泉大津港のある人工島を抜け、橋にさしかかった。車窓右手にいると、橋の上から停泊中の「ひびき」が見える。船体が見えなくなると泉大津市街地に入り、まもなく泉大津駅に到着。

▲泉大津駅に到着
総括
フェリーを扱うたびに言っていることですが、きらびやかな「ひびき」船内はあたかも、都会のホテルのようでした。名門大洋フェリーの新造船といい、最近のフェリーは船の中とは思わせない造りようで、居住性が向上しています。
どんなに安い等級でも、ちゃんと横になってい一晩移動できますし、大浴場や値は張りますがレストランもあります。もし急ぐ旅でなければ、新幹線やバスではなくフェリーを利用してみてはいかがでしょうか。
撮影日:2016年7月2~3日
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