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岡本監輔の樺太旅行記 『窮北日誌』を読む会(第5回目)【5/25多来加湖畔~27歴背床】

樺太北部をフィールドワークした岡本監輔の旅行記『窮北日誌』を読む会。5回目となる今回は、岡本一行が多来加湖畔を発つシーンから始めていきます。

盤香で入手した小舟を使い、陸伝いに北知床半島の先端部を目指すようです。まだアイヌ人のテリトリーですが、ときおりウィルタ人の集落に出会うところが興味深い。

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▲今回読み進める行程(赤矢印が巡検ルート)

5/25 多来加湖畔~野凝


二十五日、天気猶ほ悪し。

蝦夷 皆な晴れを待たんと請ふ。

余 伝九郎と舟を舎(やど)して陸し行く。

三四里にして場中(バナカ)に到る。小山有るに翠色隠然たり。

小六子夷の志那古奴と云ふ者、追ひて至るに会ふ。

米及び煙草を分けて之を齎らし、先導せしむ。

二里ばかりして野凝(ノコロ)に到る。

山勢 中断して豁然たり。開廊の広さ、約二十町なり。

沮洳を多くし、荒茆 地に満つる。

東北の山脉 漸く遠く、漸く高し。蒼翠 雲に聳ゆ。

一河有り。広さ三十間、深さ四尺。

夏秋の交(あわひ)、鱒 極めて夥しと云々。

西方の山に倚り、肉分夷一家有り。清泉 焉に出づ。

夷曰く「冬間の気候、甚だ寒し。午後に到れば則ち温煖なること、大に盤香の比に非ず。」と。

是の夜、酒を従ふ所の土人及び肉分夷に飲ましむ。

夷、煙草を乞ふ。盤香の夷、酒を乞ふ。

伝九郎曰く「是れ饜(あ)く無きなり。」と。

皆な与へず、植吉等に命じ、酒樽及び米苞を戸中に蔵せしむ。

両夷、皆な怒る。夜に乗じ去る。

■解説

この日は悪天候でした。好天まで待機するという従者一同を置いて、岡本と伝九郎は一足先に陸路で先行する模様。3~4里ほど進むと、場中という土地に着きました。このあたりには現在、パナー川という川が流れていて、矢向花(やんけばな)という地名もあります。

ここで新たな仲間が登場します。ウィルタ人の志那古奴という人物が、後を追ってきました。彼に手持ちの食糧などを分け与え、新たなガイドに迎え入れます。

さらに進むと、やがて開けた土地に入りました。野凝(野頃)です。湿地が多く、ジュンサイの類が生えていました。鱒が多く獲れる川も流れています。

西側の山すそに水源地があって、そこに肉分夷も居住していました。ついに出てきました、北樺太の主たる先住民・ニブフの登場です。これから多々登場しますが、今回はまだアイヌ・ウィルタのテリトリーということで、それほど重要な立ち位置...とまではいきません。

アイヌ人従者と合流したのち、住民や従者に酒を飲ませました。皆こぞって酒やたばこを求めたようです。あまりにも貪欲なため取り上げると、一同怒ったのは言うまでもありません。夜に野凝を去り、村の外に野営した模様。

5/26 野凝~歴背床


二十六日、霧を冐して早行す。

山上を見るに、落葉松翠の色、滴らんと欲す。

其の下の崩頽土色、灰白なり。

行くこと里許、山脉の中断すること五六町なり。

一河有り。深さ臍に到る。砧向(キンタンキ)と為す。

霧晴れて一山を東南一里の外に瞰(のぞ)む。是れを歴背床(ベセトコ)と為す。

即ち盤香の見る所、盤香より此に到る。

漸く東し漸く南す。沙汀の平かなること、砥のごとし。

下辰、まさに山下に抵らんとするに、風有りて乃ち止む。

■解説

霧が立ち込める中を出発しました。道中山々を見ると、植物が茂り青々とし、灰白色の土が露出しています。

やがて、臍までの深さがある川に行きつきます。このあたりを砧向(きんたんき)といいました。発音からして、仁滝(じんたき)川の位置ではないでしょうか。

霧が晴れて一里先の山に目をやると、その下に歴背床という場所が見えました。盤香からも見えるようです。この辺りで東から方角を変え、北知床岬の先端まで南下していきます。歴背床のあたりまで来たところで、この日の移動を終えました。

5/27 歴背床


二十七日、風に阻(へだ)てらる。

午後、伝九郎 散歩するに小石を齎し帰る。石 赤紅色を帯びたり。

曰く「此より南、海浜皆な巌石にして、その質 概して是のごとし。吾 之を錐断す。石中の金を有するがごとくなり。」と。

前に場中を過ぎしとき、銕沙の地に鋪(し)くを見る。

今又た此の石を見る。恨むは余、未だ舎密(せいみ)術を学ばざるのみ。

■解説

この日は風の影響を受け、ほぼ動けないまま1日を過ごしました。

散歩から帰ってきた伝九郎が、小石を持っているので見ると、それは赤みを帯びていました。伝九郎が言うには、ここから先の海岸線は岩がちで、手持ちの小石と同じ質感であるとのこと。

岡本は以前、場中の海岸でこれと同じ石を見ていました。かなり気になっていたようですが、いかんせん専門外だったらしく、科学を学んでいないばかりにと、口惜しがっています。


といったところで、5回目の解説を終えました。まだ北緯50度以南の地域ですが、徐々に北樺太の風土が出始めています。

先にネタバレしておくと、50度線を越えるのは(日誌上の時系列では)約3週間後です。読んでいてじれったく思いましたが、それはまた別の機会にでもお話しするとしましょう。
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